結論、精神科領域はさまざまな勉強が必要です。代表的な病気で5つあり、さらに治療や看護も合わせると多くのことを学ばなくてはいけません。
そこで精神科歴5年でスーパー救急病棟に勤務している管理人がここまでの経験をもとに精神科看護師の勉強方法やおすすめの本を紹介します。
本記事内容
- 精神科を代表する5つの疾患や障害
- 精神科看護で勉強必須の治療5選
- 精神科でよく見る内科系疾患
- 精神科でよく使う基礎看護技術から精神科特化の看護技術
この記事を読めば『今から精神科を目指すあなたが精神科の表面がざっと理解できる』を目指しました。
精神科は勉強したら勉強した分すぐに病棟の患者さんに実戦ができるのが面白いところ。流し読みでもいいので読んでみて精神科に興味を持ってもらえれば最高です。
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精神科を初めて転職する就職する看護師に絶対読んでほしい2冊
まず精神科に初めて転職する就職する看護師に絶対読んでほしい2冊があるので紹介させてください。
- 援助者必携 はじめての精神科 第3版
- 精神疾患にかかわる人が最初に読む本
順番に解説します。
はじめての精神科
援助者必携 はじめての精神科 第3版は精神科に務める人の肌感覚を養える本。すべての看護師や医療関係者に読んでほしい本ですね。
なぜなら、精神科は一般科と比べると目に見えて良くなりにくい=治りにくいという印象があり、医療者の中にも『精神科の患者は厄介』といった印象を持っている人も多いから。
この本を読むと、精神科医でも難しいと感じていることがわかりますし、精神科に勤めていると感じるやりにくさ、もどかしさを赤裸々に語ってくれています。
また著者の春日先生は精神科患者の行動制限の最たるもの拘束対応を最小化した松沢病院での勤務経験もある方。
私はこの本を就職したばかり5年前にプリセプターの先輩から「読め」と言われて読んで「あーこんな感じかぁ。」と漠然と読みましたが、2021年3月の5年経験を経て再度読み直すと「あ!!めっちゃ分かる!!」と自分の肌感覚をそのまま書いてくれてる感じがして背中を押してもらえた気がしました。
特に巻末にある声掛けやコミュニケーションなど精神疾患のある患者との関わり方テクニック集はすぐに使えるので初学者のあなたもぜひ一度手にとって見てください。
何より医学書なのに2000円強と安いですよね。
第2版に続いて、現場的で実務的な内容に仕上げてくれています。
なによりも、"こうあるべし"という理想的な臨床家像ではなく(ある意味、現場的には理想の
臨床家像ですが...)、泥くさい臨床家像を示してくれます。
第2版同様に、それぞれの章に目を開かせてくれるものはあるのですが、なんといっても終章(部)の
「援助者の精神安定のために」ではないでしょうか。これによって、たくさんの臨床家が救われると
思います。
読み返してみたいと思います引用:Amazon
クリニック、在宅で医者をやっています。
月に10冊近く医学書を読んでいますが、久々にすごい本と思いました、そして安い。総論部分が特に秀逸で、困難ケースをパターンで認識する力、援助者が困難に感じているだけで本人は困っていないケースの考え方、人事を尽くして天命を待つという対処などなど。
都市部のクリニックのため、仕事では困難事例に遭遇することが多いですが、そこで感じてきたこと、やってきたことが、すごく簡潔に言葉になっていました。この感触をここまで解説できるのは本当にすごいです。
また、コミュニケーション困難者の精神構造を理解する上で、各論も面白かったです。引用:Amazon
精神疾患にかかわる人が最初に読む本
援助者必携 はじめての精神科 第3版は精神科に務める人の肌感覚を養える本なら精神疾患にかかわる人が最初に読む本は精神疾患をイラストや図解でざっくりと学べる精神科入門書です。
病気や症状、コミュニケーションをまずは全体像から掴みたい人にはおすすめの一冊です。
私は実習に行った時のことを思い出しつつ読んでみたのですが、精神科について偏見が少しあったのかなと。なぜなら「なんでこの人はこんな支離滅裂なことを平然というのだろうか」と偏見混じりで実習を受けていたから。これの本を看護学生のときに読んでいたら変な偏見なく患者さんの精神症状とかコミュニケーションに集中できたのにと悔やまれます。
症状の解説もさることながら看護師なら必須の患者との向き合いかたや対応方法も学べるので精神科が気になる看護師は絶対読むべき本です。
看護師向けに書かれているのかと思っており、一般人が読んで理解できるのかと心配していました。
一般人の私にもイラスト入りで分かりやすかったです。
帯の背表紙側にも書かれている通り、対応に困る人とのコミュニケーションの悩みを少し解消するヒントが得られるものだと思います。引用:Amazon
看護師向けに書かれていますが看護師でなくてもスムーズに読めるほど簡単な内容でした。
大きなイラストと分かりやすい文書で精神疾患の症状や精神疾患を解説してくれています。
精神疾患は初心者にとっては文書で解説されていてもピンとこないこともあるなかで、イラストがあるおかけでとてもイメージがつかめました。
勉強嫌いでめんどくさがり屋の私でも最後まで読めたので、本が苦手だけど精神疾患を学ばないといけない人にもオススメです。引用:Amazon
精神科看護師がやるべき3つの勉強方法
精神科看護師がやるべき勉強方法は下の3つです。
- 本や論文で勉強する
- 先輩や同僚から勉強する
- 病棟の患者さんを通して勉強する
順番に解説します。
本や論文で勉強する
精神科看護師がスキルアップしたいのならば本や論文、研究を基に勉強しましょう。
なぜなら、人の話やネットの情報は根拠(エビデンス)が曖昧だからです。
本や論文は著者や出版社が根拠となる研究やエビデンスをかき集めてやっと完成させているもの。
下手に自力で勉強するよりも効率がいいですし、怖い先輩に『エビデンスあるの?』って聞かれても『〇〇という本に~』と答えられます。
この記事でも多数の本を紹介していますし、実際に書店いって立ち読みをしてあなたが理解しやすい文章や図解、イラストが入っているお気に入りの本で勉強しましょう。
本は書店やAmazonで探すのがおすすめですし、論文はGoogleスカラーやネットで検索すると出てきます。
自分の領域の勉強をしたいのなら雑誌がおすすめです。
精神科看護師なら雑誌の『精神看護』と『精神科看護』がおすすめです。
精神看護は最近のトピックに敏感でSNSやネットにも抵抗がない印象でさまざまな時事ネタが学べます。
逆に精神科看護は論文や研究を深めた内容が多く堅い文章が多い気がします。読みやすさなら精神看護かなと。
先輩や同僚から勉強する
先輩や同僚から勉強するのもおすすめの方法。
例えば、採血とか点滴の手技って参考にした先輩がいるのでは??
結局、基礎看護技術もフィジカルアセスメントも座学で勉強したところで臨床、病棟で使えないと意味がありません。
先輩や同僚で採血がうまい人や吸痰がうまい人の手技を真似て盗むのは職人(看護師)にとって必須の勉強方法。
病棟の患者さんを通して勉強する
ここまで本や先輩看護師から勉強する方法を紹介しましたが、最後は病棟の患者さんやあなたの受け持ち患者さんを通して勉強する方法を紹介します。
患者さんを通して勉強するといっても大それたことをするわけでなく、あなたが受け持ちになった患者さんの病気、コミュニケーションを通して学ぶだけ。
例えば統合失調症で家族協力が得られない患者さんならば下のような形で勉強していきましょう。
- 統合失調症の病気の勉強
- 現在患者さんが飲んでいる薬
- 今までの入院歴からどのような薬を使ったのか、なぜその薬物治療が中止になったのか読み取る
- 入院理由を掘り下げつつ、コミュニケーションを取る→上手くいかないのなら別のコミュニケーション手法を使う
- 家族がなぜ治療に協力的でないのかその背景や理由を考える→家族とのコミュニケーションを取りつつ、協力してもらえるように掛け合う→疾病教育を一緒にする
上記は一例ですが、使うかもわからない知識を勉強するのは効率が悪いしやる気も集中力も持ちませんよね?
それなら実際に目の前の患者さんに使う知識を勉強してコミュニケーション技術や看護技術を実践して失敗しつつも勉強したほうが効率がいいし患者さんの看護にも活きてきます。
ぜひ、活きた勉強方法を使って精神科看護師として成長していってください。
精神科を代表する5つ疾患や障害と勉強方法
精神科を代表する5つの疾患や障害は下のとおり。
- 統合失調症
- 双極性感情障害
- 発達障害
- 認知症
- 物質使用障害
それぞれの説明をして行く前に、これらの疾患や障害を勉強するには、別々で勉強するよりもまとめて勉強したほうがいいです。
なぜなら薬物療法や認知行動療法などで共通する部分もあるからです。
まとめて勉強するのにおすすめなのが『精神神経疾患ビジュアルブック (ビジュアルブックシリーズ)』。
私が新人看護師や精神科を始めて就職した看護師さんに必ずおすすめする本が、ビジュアルブックシリーズの『精神神経疾患ビジュアルブック (ビジュアルブックシリーズ)』です。
この本は文章もさることながら、図解やイラスト、画像を多数掲載しているので理解しやすい。
精神科看護概論、精神科の看護など堅い文章が続く文字だらけの本で勉強するよりも視覚的にもわかりやすい本で勉強する方が効率もいいですし、患者さんや家族へ説明するときもイメージしやすいですよ。
ここからはそれぞれの疾患の勉強方法や治療方法、看護についてまとめていきます。
統合失調症
統合失調症は、脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。ほかの慢性の病気と同じように長い経過をたどりやすいですが、新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、多くの患者さんが長期的な回復を期待できるようになっています。
統合失調症の詳しい看護や観察ポイント、看護目標は下の記事で解説しています。
参考精神科歴5年が統合失調症の看護を徹底解説【観察ポイント・アセスメント・看護目標】
統合失調症の代表的な症状は下のとおり。
- 幻聴:聞こえるはずのない声が聞こえる
- 幻覚:見えるはずのないものが見える、感じる
- 思考伝播:自分の考えが他人に筒抜けになっている感じる
- 自発性の低下:意欲でず活動性が落ちる
- 感情の平板化:感情の起伏がなくなり表情も乏しくなる
急性期では下のような陽性症状が著明に出現します。
- 実際に存在しない声が聞こえたりする幻聴
- 物や人が見えたりする幻視
- 周りから悪口を言われている・自分の考えが筒抜けになっているといった被害妄想
逆に慢性期になると陰性症状が中心に出現します。
- 周囲のことに無関心
- 感情表現がうまくできなくなる感情の平板化
統合失調症に限らず精神科でよく見る症状は下の記事にまとめています。
参考精神科歴5年が臨床でよくみる14の症状を徹底網羅【アセスメント&看護計画も解説】
統合失調症を勉強するのにおすすめの本は『読めば気持ちがす~っと軽くなる 本人・家族に優しい統合失調症のお話 ココロの健康シリーズ』
『読めば気持ちがす~っと軽くなる 本人・家族に優しい統合失調症のお話 ココロの健康シリーズ』は患者や家族向けに書かれた統合失調症の本なので看護には少し物足りないかなといった印象。
統合失調症の最前線を知りたいと思った。あからさまに言えば、東大卒→国立精神神経センターという経歴もけっこう決め手になった。
引用:Amazon
双極性障害・気分障害・うつ病
双極性障害は、躁状態とうつ状態をくりかえす病気です。
躁状態とうつ状態は両極端な状態です。その極端な状態をいったりきたりするのが双極性障害なのです。
引用:双極性障害 厚生労働省
双極性障害や気分障害について詳しく知りたいあなたのために下の記事で解説しているので参考にしてください。
参考【必読】精神科歴5年が双極性障害(気分障害やうつ病)アセスメントと看護計画を解説
気分障害の患者さんの症状には下のようなものがあります。双極性障害だとより下の症状がひどくなります。
- 抑うつ気分:気持ちが滅入る、気持ちが沈む
- 興味,喜びの喪失:趣味が全く楽しめない、世の中の事に関心がなくなる
- 食欲低下:食べ物の味がしない、おいしくない
- 不眠:寝つきが悪い、夜中に何度も起きる
- 高揚気分:ハイテンションで手がつけられない程の活動性がある
- イライラ、易怒性:些細なことが気になったり、言葉尻に怒鳴ったりする
- 自尊心の肥大:自分が強くなった、偉くなった様に感じる
双極性障害や気分障害の症状は臨床ではよくみる症状なので下の記事を参考に勉強してください。
参考精神科歴5年が臨床でよくみる14の症状を徹底網羅【アセスメント&看護計画も解説】
また気分障害や双極性障害の勉強をよりしたいというあなたにおすすめの2冊があります。
まず最初に紹介するのが『気分障害ハンドブック』。
この本は図解やイラストは少ないのですが、エビデンスに基づいた論理的な解説があり、気分障害を初めて受け持ちするときに読んでおいて損のない本です。
基本的には研究結果と、実際の臨床での対応方法など薬物治療と精神療法どちらも使って対応する方法が書いてあるので精神科医以外にも看護師、ソーシャルワークにもおすすめの本と言えます。
臨床上の様々な問題に対して、現時点でのエビデンスの有用性と限界を踏まえた上で、現実的な対応法(落とし所)を示している本です。
気分障害(特に双極性障害)の治療に関して「自分のこのやり方で良いのかな?」と不安を感じる精神科医にお勧めです(かくいう私もそうでした)。引用:Amazon
ハンドブックと書いてありますが、疾患のことだけでなく、治療に関しては精神療法の大切さや薬物療法はEBMに基づいたことも書いてあります。気分障害について痒いところに手が届く本です。
引用:Amazon
もう1冊は『双極性障害 第3版: 病態の理解から治療戦略まで』。
こちらの本は双極性障害にまとを絞った本です。精神科の急性期病棟ではほぼ双極性障害の躁状態で入院してきてその後うつ状態と躁状態を聞きしつつ退院を目指す患者さんも多いので双極性障害に的を絞って勉強するのもおすすめです。気分障害やうつ病で軽症の場合には外来受診で、入院をしたくない患者さんも多いですからね。
ともあれ、こちらの本も医学書医学書しているのでやや難解です。堅い文章が苦手な人にはあまりおすすめできません。ただAmazonのレビューでもあるとおり、双極性障害の基本的な知識や薬剤の使い方、2019年時点での薬物療法と精神療法について詳しく書いてあるので、医師の治療方針や薬剤の出し方をみつつ看護サイドで退院支援を考えるのに役に立ちます。
うつと躁をあわせもった精神疾患として、臨床から研究まで網羅されている。前半の250ページほどが実践的な内容で、そこから100ページほどが研究、最後の60ページほどが文献である。文献は800にのぼりすごい数である。分厚い本でかたいイメージがあったが、論文のような堅苦しさはなくわりと読みやすい。
引用:Amazon
双極性障害についての基礎的な知識、薬剤、2019年時点での治療法についての学習、および参照としては良書。しかし、新たな気付きやこれからの展望、虚を突かれたような(中井久夫や神田橋條治などの著作群を読んだ時に感じるような)ものを期待して読むには向いていないかもしれない。研究、発見などを目的として読むにはおすすめ出来ないが、マニュアルとしては非常に優れているので星5としました。
引用:Amazon
参考精神科歴5年が臨床でよくみる14の症状を徹底網羅【アセスメント&看護計画も解説】
発達障害
発達障害はいくつかのタイプに分類されており、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害、吃音(症)などが含まれます。
これらは、生まれつき脳の一部の機能に障害があるという点が共通しています。同じ人に、いくつかのタイプの発達障害があることも珍しくなく、そのため、同じ障害がある人同士でもまったく似ていないように見えることがあります。個人差がとても大きいという点が、「発達障害」の特徴といえるかもしれません。引用:発達障害 厚生労働省
認知症
認知症は、正常であった記憶や思考などの能力が脳の病気や障害の為に低下していく障害です。認知症にはいくつかの種類があります。いちばん多いのがアルツハイマー型認知症で、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。
次いで多いのが脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症です。かつて日本では、血管性認知症が多かったのですが、このタイプは減ってきています。また、アルツハイマー型に血管性認知症が合併している患者さんも多くみられます。
引用:認知症 厚生労働省
物質使用障害(アルコール依存症、薬物使用障害)
大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態が、アルコール依存症です。その影響が精神面にも、身体面にも表れ、仕事ができなくなるなど生活面にも支障が出てきます。またアルコールが抜けると、イライラや神経過敏、不眠、頭痛・吐き気、下痢、手の震え、発汗、頻脈・動悸などの離脱症状が出てくるので、それを抑えるために、また飲んでしまうといったことが起こります。
引用:アルコール依存症 厚生労働省
物質使用障害患者のとくにアルコール依存症(最近はアルコール使用障害という)の患者さんはよくスーパー救急の病棟に運ばれてくるので症状や治療方法は頭に入れておきましょう。
急性期で対応するアルコール依存症患者さんは飲酒して家族が見きれなくなり医療保護入院で入院してくるケースが多いので急性離脱症状に注意が必要になります。
アルコールや薬物の急性離脱症状は下のようなものがあります。
- 振戦
- 発汗
- 消化器症状
- 痙攣発作
- 離脱せん妄
特に急性期病棟で出くわすのは後半の2つの『痙攣発作』と『離脱せん妄』。この2つは勉強して対策が必須。
アルコール依存症の勉強におすすめしたいのは依存症治療の権威である松本俊彦先生の本全般です。
というととんでもない本の量になるので精神科にはじめてくる人向けにおすすめの本を2冊紹介しておきます。
まず依存症の人がどのような人なのか、
そこでおすすめしたいのが『だらしない夫じゃなくて依存症でした』。
こちらの本は実際のエピソードを基にアルコール依存症や家族のことを漫画でまとめられているのでとっつきやすいです。
途中にも薬物依存症の先輩が出てきたり、断酒からの再飲酒(スリップ)を経験するエピソードなどは臨床でもよく出会うことなので勉強しておいて損なし。
家族の思いもここまで綺麗ではないにしろ、共依存になる理由や家族治療の糸口が見えてくるかもです。
もう1冊はかなり難易度が上がりますが、アルコール依存症患者さんに行う集団精神療法、認知行動療法をまとめた『SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム』。
こちらの本はアルコール依存症治療の日本最先端をいく久里浜病院で実際に行われている『物質使用障害治療プログラム』の内容をまとめた本。
実際私の病院でもこのSMARPPを基にして集団精神療法を医師、看護師、作業療法士、ソーシャルワーカーで行っています。
アルコール依存症治療の断酒プログラムをやっていない精神科病院に転職する際にはあまり役に立たない内容かもしれませんが、アルコール依存症患者さんが「どうしてもお酒をやめたいのにやめれない・・・」と悩んでいるときにプログラムを勧める足がかりになるかなと。
その他にはアルコール依存症患者さんの季刊誌『Be!』や断酒会が定期的に持ってくる季刊誌などが参考になるのでぜひ病棟に届いている人は一読してみてください。
↓先を読む↓
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アディクションとは
ある習慣から得られる快体験のために、その習慣を維持することが目的になり、自分の意思ではコントロールできなくなり、日常生活に支障をきたす状態をアディクションといいます。
たとえば、お酒を飲んで楽しい経験やお酒を飲んだらすぐに寝てしまったという経験はありませんか?その楽しい経験やすぐに寝れた体験を得るために、お酒を飲む行動を繰り返すうちに、量や回数が増えていき、次第にお酒を飲むこと自体を維持するようになることをアルコール依存症といいます。アディクションの状態になると、自分の意思ではお酒の量や回数をコントロールできず、常に酔っ払っていたりして仕事や日常生活ができない状態となります。
アディクションを繰り返すうちに、身体面や精神面で依存症が形成されます。身体的な依存が形成されると、突然アルコールや薬が飲めなくなったときに、手が震えたりする身体症状や、幻覚やイライラがでたりする精神症状といった離脱症状が現れます。
アディクションの種類には以下のようなものがあります。
- 物質嗜癖:アルコール、薬物、有機溶剤、ニコチン
- 行為過程嗜癖:ギャンブル、窃盗、インターネット
- 関係嗜癖:恋愛、共依存
それぞれのアディクションについて解説していきます。
アルコールや薬といった物質嗜癖
物質嗜癖とは、ある物質の摂取や使用に執着することをいいます。物質嗜癖の特徴としては、身体的な依存が形成される点です。身体的な依存とは、身体にアルコールや薬物が入っている状態が当たり前になっている状態をいいます。そのため、何らかの理由でアルコールや薬物が使用できなくなると、身体にあって当たり前だったものがなくなるため、身体症状や精神症状といった離脱症状が出現します。
離脱症状は、手が震える振戦、発汗、痙攣などの身体症状、虫が這っている人影が見えるなどの幻覚がみたりせん妄を起こしたりする精神症状が現れます。とくに痙攣発作を起こすと、食物が喉に詰まり窒息したり、離脱せん妄による幻覚で自殺を図ろうとしたりと命の危険もあります。
パチンコや万引きを繰り返す行為過程嗜癖
行為過程嗜癖とは、パチンコや万引きなどある行為のプロセスに執着することをいいます。
たとえばパチンコで次で当たるかもしれない、当たった時の快感をもう一度体験したいという欲求を満たすためにパチンコを繰り返したり、万引きによる緊急と物を取った時の快感の相反する感情を繰り返し味わいたいと思い万引きを繰り返すことなど、その過程で得られる快感を得るために行動に執着する状態を行為過程嗜癖といいます。
恋愛し続ける誰かを想い続ける関係嗜癖
関係嗜癖とは、ある特定の人との人間関係に執着することをいいます。ある特定の人を想い続けて、その人のことを考えることやその人の世話をやくことでしか自分の存在意義や価値を見え出せなくなる状態です。
精神科看護で勉強必須の3つの治療法
精神科での治療は下の3つが基本の柱になります。
- 薬物療法
- 認知行動療法(精神療法)
- 電気痙攣療法(身体療法)
順番に解説します。
薬物療法
精神科では治療のほとんどが薬物療法での治療になります。
なので精神科医が出す薬剤の効果や副作用は絶対に頭に入れておく必要があります。
精神症状が酷いときには抗精神病薬を使いますし、気分変動が強いときには気分安定薬を使用しますし、不眠のときには睡眠薬を調整します。
それに伴い副作用の管理も看護師には求められるので、精神科看護師はお薬の勉強は必須と言えます。
ここでは私がおすすめする2冊を紹介し精神科でよく見る副作用の解説をしていきます。
まずはじめに紹介する本『精神科の薬がわかる本 第4版』です。
精神科初心者の看護師にはピッタリの本です。なぜなら、解剖生理学を解説しつつ薬の作用機序や副作用の作用機序までがわかりやすくまとめてあるからです。精神科看護師になりたての頃にはこの本を病棟に持ち込んでいれば副作用が現れた際や先生が新しい薬を導入した際に調べればどのような副作用に注意したら良いのかひと目で確認できます。
Amazonでも好評で下のようなレビューがあります。
カラー化していてより見やすくなっていました。
精神科の薬は、「薬理作用」を知ることが大事であることはもちろんですが(まだわからない部分も多いからこそ)、薬を処方する人が「どれだけ薬を飲む人のことをしっかり見ているか」だなと思わされます。著者の言葉の端々、本書によって開かれた薬の細やかな情報に、患者さんや読者への誠実さが見えます。
引用:Amazon
薬品名や効能だでなく、効果と副作用が解剖生理から説明されてありすごくわかりやすい。また、Q&Aは役に立ちます
引用:Amazon
もう一つは、『本当にわかる精神科の薬はじめの一歩改訂版〜具体的な処方例で経過に応じた薬物療法の考え方が身につく!』です。
こちらの本は精神科医も精神科看護師にもおすすめできる内容です。なぜなら、お薬の作用が図式化されていて理解しやすい工夫がされているから。タイトルからもわかるとおり、臨床の諸法令を基になぜこのような処方をするのか、意図やどのような効果を狙っているのかが完結に論理的にまとめられているので、最初に精神科の薬を理解するのにおすすめの本です。
内科医です。診療で遭遇する精神科領域の訴えに対する対応を学ぶために購入。本書は極めて簡潔に論理的に書かれている。また、わかりやすい図や表が添えられていて理解しやすい。すばらしい指南書である。
引用:Amazon
精神科のナースに必見
職場の精神指定医より勧められて購入。
医師がどの様な意図で処方してるのか為になる
勧めたドクターは研修医にも勧めてるしナースが持っていても良いどの事
実際にわかりやすく使いやすい引用:Amazon
精神科でよく見られるお薬の副作用には下のようなものがあります。
- EPS(錐体外路症状)
- 悪性症候群
- 呼吸抑制(セレネースアキネトン)
- リチウム中毒
- 皮膚症状(ラモトルギン)
- 痙攣発作(クロザリル)
順番に解説します。
錐体外路症状(EPS)
抗精神病薬によってはドーパミンの動きを過度に抑えることで、パーキンソン病のような症状が出る場合があり、これを錐体外路症状(EPS)といいます。
抗精神病薬によってドーパミンの働きが過剰に抑制されることにより生じる、手がふるえる、体がこわばる、足がむずむずするなど、パーキンソン病様の症状(錐体外路症状、抗精神病薬の働きとドーパミン参照)を和らげるために使います。
この薬は、副交感神経を刺激するアセチルコリンという神経伝達物質の働きを妨げることで錐体外路症状を改善しますが、一方で、口が渇く、便秘、おしっこが出にくい、認知機能低下などの副作用がみられることがありますので、これらの症状が気になる場合は、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。
錐体外路症状については下の記事でも解説しています。
参考【基礎】定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の作用機序と副作用を徹底解説
悪性症候群
悪性症候群は、多くは急激な症状の変化を示します。抗精神病薬などを服
用後、急な高熱や発汗、神経系の症状などが認められる場合は、悪性症候群
発症の可能性を考慮する必要があります。悪性症候群は、放置すると重篤な
転帰をたどることもありますので、迅速な対応が必要です。
臨床では看護師が一番はじめに気づく副作用で早急の対応が必要な副作用の一つです。
実際年間に数件は悪性症候群の対応をしますがだいたいは下の症状で気づきます。
- 数日前に増薬
- 発熱、発汗、手指振戦、けいれんなどのバイタルサイン上での異常
- その後悪性症候群疑いにて採血を指示してもらい検査結果CKや白血球などの数値が上昇
このため看護師が普段から患者さんの状態にアンテナを貼っておくことが重要な副作用になります。
感染症による発熱と精査が難しいですが増薬や体調不良のときには悪性症候群が同時併発しやすいのは頭に入れておいてください。
呼吸抑制(セレネースやレボトミンの筋注後)
セレネース(ハロペリドール)は精神科で入院時の鎮静を図る場合や不穏に常用されているお薬です。
セレネースはもともとその性質上副作用が出やすいお薬ではあるものの、鎮静作用が重宝されています。
ただセレネースによる筋肉注射後に重要な副作用があり、それが「呼吸抑制」です。
高熱が持続し、意識障害、呼吸困難、循環虚脱、脱水症状、急性腎障害へと移行し、死亡した例が報告されている。
(中略)呼吸抑制があらわれた場合には、気道の確保、人工呼吸等の適切な処置を行う。
引用:医療用医薬品 セレネース
実際、私も就職したての頃に、激しい不穏状態で看護師や医師への暴力行為が押さえられずレボトミンによる筋肉注射を行ったところ呼吸抑制が起こり、SpO2が90%を切り酸素が必要になった患者さんもいたのでお薬による副作用はよく勉強しようと思いましたね。
また下の岡山大学病院 精神科神経科の井上先生のせん妄資料における筋肉注射の留意点は参考になるのでぜひご覧ください。
参考みんなが苦手な精神症状せん妄 岡山大学病院 精神科神経科 井上 真一郎
リチウム中毒
リチウムは双極性障害や感情障害の患者さんに頻繁に使われる薬剤ですが、重要な中毒症状があります。
それがリチウム中毒です。
リチウムの主な中毒症状としては下記のようなものがあります。
中枢神経系症状として、意識障害、運動過多、筋力低下、小脳症状、発語障害、嚥下障害、知覚障害、ミオクローヌス、循環器系症状として血圧低下、不整脈、心電図異常(T波陰転化)、消化器系症状として嘔気、嘔吐、下痢、泌尿器系症状として乏尿、腎性尿崩症、遠位尿細管アシドーシス、その他に甲状腺機能低下、成人呼吸促迫症候群などが挙げられます。中毒学的薬理作用はまだ完全に解明されていませんが、脳内アミンに対して、シナプス後膜に作用するカテコールアミン量を減少させ、また、電解質としてナトリウムと同様の作用を示し、ポンプ機構により排泄される速度はナトリウムよりも遅いため、後シナプス障害により、シナプス伝達に抑制的に働くためだと考えられています。引用:リチウム中毒の対処法と迅速な血中濃度測定法 北里大学東病院薬剤部 椎崇
ちなみに臨床的にはリチウム内服調整中に起こることは稀で、うつ症状で死のうとしてお薬を大量内服するオーバードーズ(OD)した患者さんが起こすことが多いです。
リチウムの濃度が急激に上がると急性腎不全を起こし、最悪慢性腎不全で透析になることもあるので注意が必要な副作用です。
リチウム内服中の患者は定期的に採血を行い、リチウムの血中濃度をモニタリングしながら増薬や調整をしていきます。
リチウムもあわせて気分安定薬の作用機序や副作用などは下の記事にまとめています。
参考【必読】精神科看護師が覚えるべき4つの気分安定薬【作用機序と副作用と看護】
皮膚症状のスティーブンス・ジョンソン症候群(ラモトリギン)
スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群:Stevens-JohnsonSyndrome)と中毒性表皮壊死症(ToxicEpidermalNecrolysis)は精神科薬剤の中でも重症度が高く注意スべき副作用です。
本剤の投与により中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、薬剤性過敏症症候群等の全身症状を伴う重篤な皮膚障害があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されているので、以下の事項に注意する
女性患者だろうが、男性患者だろうが皮膚症状をよく観察するのも看護師に求められる観察ポイント。ただ皮膚症状が出るときは一気に全身に広がるのですぐにわかります。
下の全日本民医連の記事が画像つきで症状の説明や観察ポイントを解説しているのでぜひ参考にしてください。
痙攣発作(クロザリル)
クロザリルは抗精神病薬では治療効果が薄い「治療抵抗性統合失調症」の患者さんに使われるお薬です。そして、その副作用の多さから臨床では毎日、各勤務帯でクロザリルの副作用のモニタリングを行っています。
クロザリルは、治療抵抗性統合失調症に対して、効果があることが認められている唯一の薬です。海外では米国、英国をはじめ100ヶ国以上(2016年8月時点)で承認され効果を上げている薬剤で、国内臨床試験でも治療抵抗性統合失調症患者の50%以上に改善が認められています。
そしてクロザリルの副作用は下のようなものがあります。
- 白血球減少
- 心筋炎
- 高血糖
このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。
- 発熱、のどの痛み[無顆粒球症、白血球減少症、好中球減少症]
- 疲労、動悸、呼吸困難[心筋炎、心筋症、心膜炎、心嚢液貯留]
- 呼吸困難、発熱、胸痛[胸膜炎]
- 口渇、多飲、意識低下[高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡]
- 筋肉のこわばり、飲み込みにくい、発熱[悪性症候群]
- 息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫[肺塞栓症、深部静脈血栓症]
- 便秘[腸閉塞、麻痺性イレウス、腸潰瘍、腸管穿孔]
精神療法(認知行動療法)
精神療法には大きく分けると3つに分けられます。
- 支持的精神療法
- 認知行動療法
- 集団精神療法
順番に解説します。
支持的精神療法
支持的精神療法とは、患者さんと治療者(主に医師や心理士)が話し合いをしながら、一緒に悩みを解決していく方法です。
統合失調症の患者さんは過度の緊張や不安など症状からくるつらさや苦しみを抱えています。支持的精神療法では、このようなつらさや苦しみに対して共感を示し、そのうえで薬物療法が現在の症状を和らげるのに役立つことを説明し、病気に対する不安をできるだけ取り除くようにカウンセリングします。
ちなみに支持的精神療法について詳しく知りたい人は下の記事が参考になります。
認知行動療法
認知行動療法は誤った信念や歪められた思考パターンを修正する精神療法で、うつ病の治療によく行われているものです。
集団精神療法
集団精神療法は、複数の患者が集まってそれぞれの抱える心の問題を話し合うことで自分の心の問題を客観的に認識し、同時に困難な状況を乗り越える方法や技能を身につけることを目指した治療法です。
電気けいれん療法
電気けいれん療法とは、脳に電気刺激を与えて全身けいれん発作を誘発することで統合失調症の陽性症状や気分障害などの症状の改善を目的として行われる治療方法です。
難治性の統合失調症や大うつ病性障害、うつ病など薬物治療に反応を示さない患者さんへ検討される治療の1つです。
最近ではごく限られた病院でしかされない治療のため、もしスーパー救急や精神科単科の病院へ就職するのなら勉強必須です。
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もっと詳しく見たい人は『詳しくみる』をタップ。
電気けいれん療法とは、目的と効果
とお悩みではありませんか?
ここでは電気けいれん療法の目的や看護師の役割についてまとめています。
電気けいれん療法とは、脳に電気刺激を与えて全身けいれん発作を誘発することで統合失調症の陽性症状や気分障害などの症状の改善を目的として行われる治療方法です。
電気けいれん療法は、ECT(Electro-convulsive therapy)と省略して呼ばれることが多いです。一般的にはECTと呼ばれますが、主に修正型電気けいれん療法(m-ECT)のことを指しています。
修正型電気けいれん療法とは、全身麻酔下で、全身けいれん発作による骨折や関節脱臼を予防するために筋弛緩薬を使用して行う電気けいれん療法ことです。
電気けいれん療法は精神科医、麻酔科医、看護師が1つのチームを作って行います。
治療は、電気けいれん療法の設備が整った治療室で、全身麻酔、筋弛緩薬、酸素吸入、モニターなどを使用して、全身管理下で行われます。
3つのECTの適応となる疾患
電気けいれん療法の適応となる3つの疾患は、統合失調症、大うつ病、躁病です。
以下に詳細をまとめます。
- 統合失調症
統合失調症の中でも、緊張病型統合失調症の患者、急激に精神症状が悪化した患者に適応されます。
特に緊張病型には著明な効果があります。一方で陰性症状が主な統合失調症患者にはあまり効果が見られません。
- 大うつ病性障害
大うつ病エピソードの患者は薬物療法に反応しない患者も多いですが、薬物療法が無効な患者にもECTは有効です。
昏迷、希死念慮、焦燥、妄想が強いうつ状態の患者にも有効です。特に希死念慮にたいしては即効性があるもの特徴です。
- 躁病
薬物療法に反応を示さない急性躁病患者にも有効で、80%の患者の症状改善が報告されています。
その他には、産褥期精神疾患のある母親が育児に戻らなくてはいけないときなどにも使用されます。
電気けいれん療法のメリット
電気けいれん療法のメリットは、なんといっても、難治性うつ病や緊張型統合失調症の患者への即効性と劇的な回復させる効果です。
また、ECTには絶対的な禁忌がありません。電気けいれん療法での死亡率はとても低く、事故は5万回に1回と推定されています。これは、短時間の全身麻酔使用と同じ水準で危険性が低いことがわかります。
しかし、やはり万能の治療方法は存在しません。
電気けいれん療法(ECT)にも副作用と弊害が存在します。
電気けいれん療法のデメリット、危険性、副作用
電気けいれん療法の副作用としては以下のようにまとめられます。
- 施行直後:頭痛、倦怠感、血圧低下、筋肉痛、気分変動
- 認知機能障害:失見当識、もうろう状態、記銘力の低下
- 記憶障害:記憶の一部喪失、もしくは戻らない
- 高齢者での危険性:せん妄、混乱
- 遅発性けいれん発作
- その他:人格が変わる、いままでできたことができなくなる
また電気けいれん療法のデメリットしてあげられるのは、その作用機序が明らかとなっておらず、多くの説が唱えられていること。
最近の研究では、電気けいれん療法は脳の特定の部分を刺激して、細胞や神経のネットワークを活性化、成長促進させていることが分かっています。
電気けいれん療法の流れ、手順
電気けいれん療法の流れは下のような流れで行います。
施行前検査の実施
電気けいれん療法の施行前には以下の検査が行われます。その検査結果を受けて医師や看護など電気けいれん療法関係者カンファレンスを行い、患者が安全に治療を受けられるかを検討します。
- 血液検査
- 心電図
- 胸腹部レントゲン検査
- 心臓超音波(エコー)検査
- 脳波検査
- 認知機能検査
- 歯科口腔の検査
施行日までに電気けいれん療法について説明
どのような治療や検査でも当然ですが、電気けいれん療法について医師より治療の流れや検査内容、効果、注意点、副作用などについて説明を行います。
患者さんや保護者から同意書にサインをいただいてから治療を行います。
施行前日は絶飲食
全身麻酔下で治療を行うため、電気けいれん療法の前日は絶飲食です。厳密にいうと前日夜0時以降は絶食です。
治療直前
治療の当日の朝食は当然絶飲食ですが、点滴を行います。
治療は電気けいれん療法専用の治療室で行います。脳波、筋電図、心電図のモニターなどが完備されています。
治療室に入室後には、脳波、筋電図、心電図モニターを装着し、全身麻酔をかけます。
麻酔施工後に、けいれんが起きないように筋弛緩薬の注射を行い、電極を両側のこめかみ(もしくは頭頂部と右方側のこめかみ)につけて通電開始となります。
治療直後
麻酔が覚めると治療が終わっているので、患者は治療をした自覚があまりありません。治療後は患者はストレッチャーで個室に移動してもらい安静に過ごしてもらいます。
ここで頭痛や吐き気などを訴える患者もいます。頭痛薬や吐き気止めで対応することもあります。
その後安静を保ち問題がなければ治療終了となります。
電気けいれん療法の施行期間と頻度
電気けいれん療法の施行期間は3週~1か月ほどで行うことが多いです。
2~3回/週で電気けいれん療法を行い、合計で6~12回施行します。
ほとんどの患者では2~3回ほどの施行で症状が改善したり、寛解したりします。
電気けいれん療法は入院で行うことが多かったですが、最近では外来受診で行う病院も増えてきています。
電気けいれん療法の看護と看護師の役割
電気けいれん療法での看護師の役割は下のようにまとめることができます。
電気けいれん療法前の看護『前日の飲食禁止を守れているか確認』
前日に飲食禁止であることをオリエンテーションします。当然前日の夜から朝にかけて何も食べないように観察が必要です。
精神疾患を持っている患者のため、飲食禁止を守れない場合や過飲水による飲水行動を止められない場合もあります。
その都度声掛けにより睡眠を促しましょう。
電気けいれん療法直前2時間以内に排尿誘導
電気けいれん療法では筋弛緩薬を使用するため、尿や便周囲の筋肉も弛緩します。そのため失禁や便失禁を誘発する恐れがあります。
必ず施行2時間以内にトイレ誘導を行いましょう。
患者の服装や身なりの確認
患者の服装はたいてい病衣を着ていただくことがほとんどですが、前開きの服に着替えてもらいましょう。脳波、心電図や筋電図などのモニター類の装着で不都合がない服装にします。
また、通電するため、ピアス、ネックレスなどの金属製アクセサリー類、化粧、入れ歯、補聴器、指輪などは取り外してもらいます。結婚指輪などどうしても外せないものに関しては金属がむき出しにならないように絶縁テープなどで保護しましょう。
電気けいれん療法中の看護
頭部キャップを着用後、髪の毛が露出しないようにする
髪の毛が電極に触れて肌に接着する面が少なくなると、電流がながれる範囲が狭くなり、皮膚をやけどするリスクが高まるためです。
通電前後でバイタルサインの記録を行う
通電前後ではバイタルサインが著しく変動するため、通電前後のバイタルサインは細かく記録しましょう。
目安としては、通電直前、通電後30秒、1分後、3分後、5分後と記録を行い、治療直後、治療室を退室する直前にバイタルサイン測定を行いましょう。
通電中の発作時間に注意
通電時の脳波上でけいれん発作が20~25秒以下の場合には、異常な発作と推定されます。通電する医師や麻酔医も確認していますが、異常が確認された場合には逐一報告を行いましょう。
電気けいれん療法後の看護
治療終了直後の患者の言動や意識レベル、認知機能レベルを確認
治療直後は患者の認知レベルが低下したり、せん妄を起こしたりすることもあります。筋弛緩薬により脱力傾向にもあるため、不意な動きで転倒や外傷を起こすリスクもあります。
患者の混乱を防ぐためにも、看護師の声掛けや患者との信頼関係の構築が重要となります。
治療前から良質な関係性を構築するように患者とコミュニケーションを図っておきましょう。
継続療法の説明を行う
ECTは症状を劇的に改善し、薬物療法に反応しない患者にも有効な治療ですが、精神疾患自体を治癒、完治させるものではありません。
再発防止のために、薬物療法の継続と電気けいれん療法の継続療法が重要となります。
怠薬や通院中断が起こらないように継続治療の必要性を説明することも看護師の役割です。
電気けいれん療法の看護師の役割について簡単に解説してきました。
精神疾患の中でも重度の疾患に対して使われるケースが多い電気けいれん療法ですので、当然患者への説明は大変です。そこが看護の見せ所といっても過言ではありません。
日ごろから患者と信頼関係を構築している看護師だからこそ見える視点を生かして看護を行っていきましょう。
その他の治療方法
アルコールや物質使用障害の患者さんへの治療では疾病教育、いわゆる集団精神療法が有効です
また薬物使用障害の患者さんに行う減薬(ハームリダクション)も注目されています。
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【看護師向け】ハームリダクションとは?【断薬を目的としない薬物依存へアプローチ】
と疑問に感じてはいませんか?
結論をいうと、ハームリダクションとは、断薬を目標とせず、お薬を使うことで起こる悪い結果(孤立、感染症)を減らすことを目的としたアプローチのことです。
ちなみに、アルコールでも節酒といった意味でハームリダクションを使うことがありますが、これは誤りです。(※徐々にハームリダクションの考えがアルコールでも使われ始めていますが・・・。)
ハームリダクションは、薬物に対してのアプローチに使われる言葉なので注意しましょう。
この辺りを踏まえつつ、今回は下の内容を解説していきます。
記事内容
- ハームリダクションとは?
- 看護師がハームリダクションを看護で実践するときの注意点
といった内容で解説していきます。
ハームリダクションとは、断薬を必ずしも目標とせず、薬物を使うことで起こるネガティブな結果を減らすことを目的とした政策やプログラムのこと。
「ハームリダクションさせなきゃ。」とかたまに使う人がいますが、ハームリダクションは減薬という意味ではなく、「政策」と言う意味合いが強いのでやや誤った使い方です。
以下歴史を振り返る内容ですのでいらない人は飛ばしてください。
ヨーロッパ、スペインがハームリダクションの発祥地
そもそもハームリダクションとはどこの考えなのか?
それはヨーロッパのスペインです。
地理的にも歴史的にもスペインはヘロインの使用が爆発的に流行し、過量内服の問題、HIV感染問題などが問題視されてきました。
元々は、薬物は「使わない」ことを前提にしていたのですが、上手くいかなかった背景があります。いわゆる、薬物使用者を排除するような動きになってしまい、抑圧的な戦略になり、問題を減らすと言うよりは、薬物使用者を孤立させより問題を深刻化させる結果となりました。
そこで、出てきた考え方がハームリダクションです。
ハームリダクションは、薬物を「使わない」という従来の目標から、過量服薬やHIV 感染などの薬物を使うことで起こる危険や害を減らすことを目的に視点を切り替えさせました。
具体的には、
- ヘロインの変わりに医療麻薬のメタドンを摂取してもらう
- 新しい注射針を運ぶワゴンを街に出す
- 専門医療機関の窓口が薬物依存の患者向けに開かれた
こういったことを行うことで違法薬物を使った犯罪者、社会的制裁があって当然といった風潮から薬物使用の非犯罪化、公衆衛生上の問題、健康問題といった風潮に変わって行ったようです。
当初はハームリダクションの影響でより薬物使用や感染症が増えるんじゃないかといった声も聞かれたのですが、実際はそう言った悪い影響はほとんど起こらず。
- HIV や肝炎は激減
- 薬物使用者がプログラムに参加することで、違法薬物の使用、注射での薬物摂取が減少
こういったヨーロッパでの実績や研究でハームリダクションの有効性が示されたので、最近日本にもハームリダクションの考え方が輸入されているわけですね。
看護師がハームリダクションを看護で実践するときの注意点
看護師がハームリダクションを看護で実践するときの注意点は下の様なものです。
- ハームリダクションは減薬という意味ではない
- 「人」に焦点を当てること
順番に解説していきます。
ハームリダクションは減薬という意味ではない
ハームリダクションは減薬という意味ではありません。
ここを勘違いしている看護師が多いように感じたのでこの記事を書いています。
断薬、減薬に焦点をあてるのではなく、お薬を使用することで起こる害に焦点をあてるといった意味合いが強いのです。
ここをよく理解してハームリダクションの考えを看護に取り入れていきましょう。
ハームリダクションは「人」に焦点を当てること
ハームリダクションは人に焦点を当てるといっても過言ではありません。
つまり、依存にだけ焦点をあてて、「お薬をやめましょう」というのではなく、アディクション(依存)の背景にある複雑な家庭環境、本人の悩みや葛藤といったその人が抱えている困難はどのようなものがあるのか、なぜ薬物を使うに至ったかといった部分に焦点を当てましょう。
具体的には、
- お薬を飲む背景をよく理解する、傾聴する
- スティグマ、偏見をなくす
- 居場所(NA)の紹介
「人」に焦点をあてて、なぜ其の行動に至ったのかを考え、行動を変えていくための具体的な支援を考えるのが看護の役割でもあるのかもしれません。
ハームリダクションの考え方を、アディクション、物質使用障害の患者さんと関わるときにもっているだけでも患者の言動や行動の意味、背景などを陰性感情を持たずに考えることができそうですよね。
『薬物依存やアルコール依存症へのスティグマって何?看護師とか医療職が偏見とかもっていたらだめだしここで改めてスティグマとか偏見を無くせる様にしたいなぁ。』
と悩んでいませんか。
薬物依存症やアルコール依存症へのスティグマや偏見をなくすには、
- 正しい知識をつけること
- 患者に実際に会ってみること
がいいですよ。
恥ずかしい話、私も大学で勉強はしたものの、薬物やアルコール依存症の患者さんヘステイグマや偏見を持っていました。
「虫が見えて突然暴れるんだろうな」「飲み続けてるし太ってる人が多いんだろうな」とか。
ただ、精神科の現場に来て、その考えは誤りだったと深く反省する事になりました。
✔スティグマを持っていませんか?
看護師だから、医師だからといって医療者でもしっかりと偏見やスティグマを持っています。
現に私も看護師として精神科の現場にくるまでは、アルコール依存症や薬物依存症の方への偏見を持っていました。
※アルコール使用障害が主流になりつつありますがここでは依存症で統一します。
例えば、アルコール依存症なら家で大暴れして暴力や暴言の嵐。
薬物依存症なら地面を這いつくばって水をすするとか。
✔スティグマって誰に植えつけられたの??
これって思い返したら何で植え付けられたのかなぁと思うと、
映画とか、アニメとか、ドラマとかなんですよね。
あと、国の広告とかポスターとかも強い偏見を作っているように感じます。
それがよく感じられるのが、「ダメ絶対」「『人間』やめますか」といった苛烈な宣伝ですね。
本質的には、患者はアルコール依存症、薬物依存症と見られるよりも、「健康問題」として取り扱われなければいけないのに、このような広告の影響で私達は無意識に、犯罪者とか倫理的な問題とか、道徳的な問とかにすり替えてしまっているんですよね。
これは看護師として患者と接するのであれば、なくさないといけない偏見やスティグマですよね?
✔スティグマを無くすには?【正しい知識と患者に会う
「じゃそういう偏見とかスティグマを取り除くにはどうしたらいいの?」という疑問には。
- 正しい知識をつける
- アルコール依存症や薬物依存症の患者さんと直接会うこと
まず正しい知識をつけるのが大切です。
大学で精神科看護を習いますが、依存症とか物質使用障害の勉強をするのは、4年間のうちの90分か180分程度です。
しかも概要だけで終わることがほとんどといってもいいくらいだった記憶です。
それだけだと、実際の患者さんがどういう背景で物質使用障害になったのかっていうところまでは想像力が広がらないわけですよね。
正しい知識をつけるといってもなかなか難しいのが現状かもしれません。
たとえば、アルコール関連の季刊誌を読むとか薬物関係の季刊誌を読むとかがいいかもしれませんね。やっぱり患者の生の声とか現場の生の声が一番大切ですから。
そして前項とかぶりますが、アルコール依存症や薬物依存症などの物質使用障害を持っている患者さんと直接会うのも偏見をなくすのによいです。
私は、精神科に勤めだしたころ、ものすごーくアルコールとか薬物の患者さんに対して偏見とかスティグマを持っていましたが、実際に会ってみると、
普通の人間なんですよね。
全然人間やめてないですよ。
この辺って、実際に会うだけでも全然イメージが変わりますよね。
だからこそ、精神科に勤めろとは言いません。
例えば、アルコールや薬物依存症関係のオープンスピーカーズミーティングに参加してみるとか、研修会とか講習会に参加するだけでも全然違うと思います。
怖いとか粗暴とかそういうのは、実際に会ってから確認してみるのが一番解消に繋がりますよ。
何もアルコールや薬物だけじゃないんですよね。
たとえば、性的マイノリティの方だって、中身は普通の人なんですよ。
看護師として、医療者として偏見とかスティグマを持っていると、正しく看護ができない。
むしろ、フラットな状態で会話ができないので、偏見やスティグマは減らしたほうがいいです。
偏見とかスティグマをへらすには、座学よりも実際にその患者と会う。
「その人」を知るのが大切ですよ。
精神科以外に勤めていて、少し環境を変えたいという方は、精神科がおすすめですよ。
精神科に来てみてわかるんですけど、人間性が豊かになるというか、少し看護師看護師っていう自分へのハードルの高さが減る気がします。
看護師も人間なんだから、患者=人間と会話を楽しみながら、退院に向けての支援をしていくのも面白いと思いますよ。
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精神科で勉強すべきアクシデントや内科疾患
- 転倒
- 糖尿病
- 水中毒
- 誤嚥性肺炎
順番に解説します。
転倒
転倒は看護の現場で切っても切り離せない程よくみるアクシデントですよね。
精神科でも例外なく転倒はよく起こる上に観察が必須です。特に抗精神病薬やせん妄状態の患者では転倒して頭を外傷するのは日常茶飯事。
↓先を読む↓
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患者が転倒直後の看護師の観察ポイント
と悩んでいませんか?
管理人のハチも、新卒の看護師になりたての頃に、認知症のおじちゃんが後頭部から転倒した現場を発見したことがあります。
それはそれは動揺して、どうしたものかと右往左往したのを今も覚えています。ある程度経験を積んだ今でも転倒した患者さんの観察ポイントがイマイチ理解できていないと感じたので、下の内容をまとめてみました。
- 転倒直後の観察ポイントや対応
- 各観察ポイントを詳しく解説
私のようにアタフタと焦らないように今から勉強しておけば転倒したときも落ち着いて対応できますよ。
あなたの備忘録としても心に留めていただければ幸いです。
転倒直後は、発見したあなたも動揺していると思いますが、患者が転倒した直後は次のとおり対応しましょう。
- 患者への声掛けにて意識レベルの確認と応援を呼ぶ
- 患者の怪我の確認と問診
- バイタルサイン測定と普段との違い比較
- 主治医、管理看護師へ連絡
- 夜間なら当直医師への報告
順番に解説します。
患者の意識レベルや脳圧亢進症状を確認【転倒時の看護観察ポイント①】
患者の意識レベルや脳圧亢進症状を確認が最優先事項。
次の内容を医師が臨場する前に確認しておきましょう。
- 意識レベル:GCSやJCSにて評価
- 瞳孔不同、対光反射の有無
- 眼球運動の確認
- 麻痺の有無
看護師の呼びかけに患者が反応するか意識レベルの確認をします。
意識レベルの確認には、GCSやJCSなどの評価指標を用いると客観的評価がしやすいです。
転倒による脳出血で頭蓋内圧亢進症状(瞳孔不同、対光反射、眼球運動の異常、麻痺)の確認も必須。
患者の怪我の確認と問診【転倒時の看護観察ポイント②】
意識レベルに問題がなれば、本人に問診を行い、転倒に打撲や裂傷、骨折した場所がないか、見当識障害がないかの確認します。
問診の内容は下のとおり。
- 打撲、裂傷、内出血の有無
- 腫脹、発赤、出血、疼痛、圧痛の有無
- 頭部の触診
- 四肢の麻痺の有無
- 四肢可動域、変形の有無
- 頭痛、めまい、悪心、吐き気の有無
- 名前、年齢、何日で何曜日か、ここがどこでなぜここにいるかの確認
- 転倒前後の記憶の有無、転倒直前にめまいやふらつきがあったかの確認
順番に確認して異常がないか確認して、怪我があれば処置も合わせてしましょう。
バイタルサイン測定と普段との違い比較【転倒時の看護観察ポイント③】
応援の看護師が到着したら、体温、血圧、SpO2など、バイタルサイン測定も大切。
ここでは、普段との違いを確認する必要があります。
高熱によるふらつきからの転倒なのか、起立性低血圧での転倒であるのかなどの確認ができます。
血圧が異常に高い、低い場合には早急に医師に報告しCTのオーダーも依頼しましょう。
もし急劇な頭蓋内出血を起こしている場合には、血圧が急上昇(170〜200もざら)もあります。
患者本人は動揺して気づかないことも。
客観的データであるバイタルサインは正直なので正確に測定しましょう。
主治医、管理看護師へ連絡
転倒発見時に主治医ないし当直医へ連絡していると思いますが、バイタルサインや問診後に再度連絡しましょう。
連絡事項は、
- 意識レベル
- 怪我、頭部外傷の有無
- 激しい痛みやしびれの訴えの有無(骨折の確認)
- バイタルサイン
特に重要なのは、頭部外傷の有無。
転倒を直接見ていない場合がほとんどだと思いますので、頭部外傷がなくても、頭部CTが必要か医師と相談しましょう。
大概の場合は、頭部CTを取りますし、撮った方が安心と言えます。そのあたりは、医師と要相談。
転倒後6時間以内は要注意
転倒直後は、患者の自覚症状が乏しいことも。
仮に頭蓋内出血を起こしている場合には、転倒後6時間以内に重症化します。
転倒後6時間以内は急変のリスクが高いので下のように対応しています。
- 転倒直後の1時間以内は15分~30分置きにバイタル測定
- 2時間以内は30分~1時間置きにバイタル測定
- 以降は1時間置きにバイタルサイン測定
転倒の状態や疼痛の有無で3時間でバイタル測定を終了することもあれば、心配なときは6時間以内は取り続けるように申し送ったりもします。
あくまで私はそうしているということ。
エビデンスがある話ではありませんので悪しからず。
要は、患者の安全を第一に考えるとどのくらいの頻度で観察したほうが安心安全かというところです。
業務と相談しながらですが、急変のリスクがある患者を目の届くよう観察するのも、看護師の重要なスキルです。
転倒によるハイリスクの患者
観察や問診後には、以下の患者ではないか確認します。
- 意識障害がある患者
- 出血傾向にある患者
- 認知症の患者
意識障害がある患者は、当然ですが頭蓋内出血の危険性があります。早急に頭部CTの指示をもらい、脳専門医師の診察を受けてもらいましょう。
出血傾向にある患者とは、血小板が減少する疾患に罹患している患者、抗凝固薬内服中の患者のことです。出血傾向にある患者は、外傷や内出血が止血しにくいため、要注意観察です。頭蓋内での出血がじわじわと続いて、症状が出現する場合も。
認知症の患者は、転倒後の安全保持が困難。ADLや指示に応じることが可能であるのか確認し、安静保持が困難である、あるいは、転倒のリスクが高い場合には、行動制限も視野に医師と相談しましょう。
頭蓋内出血による症状がないか、骨折がないのか、ハイリスクな患者ではないかなど確認することも多いです。
転倒直後は何もなくても、時間の経過とともに患者の状態が変わることもあります。転倒後6時間以内の観察はしっかりと行いましょう。
転倒させないことも重要ですが、転倒を100%防ぐことはできません。
転倒直後の観察ポイント、対応を身につけて看護力を高めておきましょう。
糖尿病
糖尿病も統合失調症や双極性障害が併発している疾患の代表格。
アルコール依存症や薬物依存症の患者さんも依存対象の影響で糖尿病を発症している人もいるので勉強は必須と言えます。
新人看護師がやりがちなミスに、インスリンの注射時間の間違えです。
インスリンには短時間で効くものと、ゆっくりと聞いてくるものがあります。
食事直前に打つべきインスリンの皮下注射を、血糖測定と同時にしてしまってアクシデントレポートを書いている新人さんを何度見たことか。
精神科だとあまり勉強必要ないだろうと新卒看護師さんは思いがちですが内科疾患も勉強必須です。
図解が多数掲載されている『まるごと図解 糖尿病看護&血糖コントロール』がおすすめです。
糖尿病看護に興味を持ち、購入しました。
本当にわかりやすい。何度も読み返して、基本的なことを学ぶにはちょうどいいと思いました。おススメの1冊です。引用:Amazon
水中毒
水中毒とは、多飲症によって体内に大量の水分が貯留した結果、様々な臨床症状が出現する状態です。
※多飲症とは、健常者と比較してい大量の水分を摂取する状態のことを言います。1日3L以上水分を摂取する患者は多飲症といえます。
重症多飲症患者の約8割は統合失調症
残りの2割
- 気分障害
- 器質性精神障害
- 精神遅滞
- 神経症
- 摂食障害
水中毒については別の記事にまとめているので是非参考にしてください。
参考【死の危険も】水中毒(多飲症)の看護を徹底解説【体重測定と飲水チェックが基本】
誤嚥性肺炎
食べ物や飲み物、あるいは唾液などを飲み込むことを嚥下(えんげ)といいます。健康な人であれば、嚥下すると口から食道を通って胃に入っていきます。しかし嚥下機能が低下すると、食べ物などが口から気管に入ってしまいます。これが誤嚥(ごえん)です。誤嚥性肺炎は、細菌が唾液や食べ物などと一緒に誤嚥され、気管支や肺に入ることで発症する疾患です。
誤嚥性肺炎も精神科では多い疾患です。なぜ多いのかというと、精神科で使われる薬剤の影響で嚥下にも鎮静がかかってしまい誤嚥してしまう患者さん、もともと全身状態が悪く誤嚥性肺炎を起こしてしまう患者などなどが多いからです。
精神科では発熱やレントゲン所見で気づかれることが多い症状ではありますが、看護師再度で必ず口腔ケアを行ったり、正しい姿勢での食事や食事形態を調整することで防ぐことができます。
誤嚥性肺炎についての知識も必ず身につけておきましょう。
やや高齢者向けの誤嚥性肺炎の予防方法を解説していますが『誤嚥性肺炎の予防とケア(7つの多面的アプローチをはじめよう)』がおすすめです。
ここでの7つのアプローチを行えば、誤嚥性肺炎のリスクを看護師サイドで下げられます。
誤嚥性肺炎を真実を伝えている本は数少ない。さらに誤嚥性肺炎に真っ向から勝負できる本も、極僅かしかない。著者の前田圭介先生は、自らの多くの研究に基づきエビデンスを蓄積している誤嚥性肺炎の先駆者。本書は、今まさに誤嚥性肺炎と戦おうとする医師、看護師、介護職に対してのプレゼントである。その恩恵にあずかった一人として、後に続く者は必携である。
引用:Amazon
精神科でよく使う3つの看護技術&勉強法
精神科はたしかに医療や処置が少ない印象があるかもしれませんが、実際は基礎看護技術も必要ですし、コミュニケーション技術も必要です。内科とは頻度の違いはあれど看護技術の勉強が不要というわけではありません。
下のような看護技術が求められます。
- 基礎看護技術
- コミュニケーション技術
- 精神科で求められる看護や看護技術
それぞれを順番に解説していきます。
精神科看護師がよく使う基礎看護技術6選
まずはじめに基礎看護技術から紹介していきます。
基礎看護技術はざっと下のとおり6つがよく使います。
精神科でよく使う基礎看護技術には下のようなものがあります。
- 採血
- 点滴
- 筋肉注射
- 血糖測定
- 吸痰
基礎看護技術は精神科だろうがどこの科だろうが必ず使う技術なのでぜひ事前にイメトレをしてほしいです。
イメトレで使うのは画像を豊富に使った図解がある本『看護がみえる vol.1 基礎看護技術』『看護がみえる vol.2 臨床看護技術』がおすすめ。
またオールカラーでわかりやすい画像やかゆいところの説明が書いてある『完全版 ビジュアル臨床看護技術ガイド』がおすすめです
採血
採血はどの病院でも使う看護技術で、精神科も例外なく採血は必須の看護技術です。
参考【保存版】採血できない看護師なくす11の手順を徹底解説【あるあると練習方法】
採血の頻度は急性期や慢性期によってかなり違いますが、スーパー救急を持つ病棟だと振り幅がかなりあります。
- 急性期:3~5件
- 慢性期:1~3件
精神科での採血の頻度は下の記事にまとめています。
参考精神科看護師はどのくらいの頻度で採血する?【ぶっちゃけ1日3件と少ないです】
なぜなら、外来で不穏状態で暴れていたり、スタッフ1名で採血が困難なケースも多いからです。
概ね複数スタッフにて徒手的な介助で採血を行うことも多く、男性スタッフの手を借りないと採血どころか隔離室への入室も困難な場合もあります笑
点滴
点滴は精神科でもしますよ。ちなみに内科の点滴に比べれば数は圧倒的に少ないですが。
点滴の頻度的にいうと下のとおり。
精神科看護師は点滴をする頻度が0~3件です。
参考精神科看護師は点滴をする頻度が0~3件/日な話【物質使用障害の患者へのDIV】
精神科で多い点滴の理由は下のとおり。
- アルコール依存症患者さんの解毒点滴(ビタミン点滴)
- 過量内服(OD)患者さんの胃洗浄後のウォッシュアウト点滴
- 誤嚥性肺炎による抗生剤点滴
- 悪性症候群によるダントリウム点滴
- 摂食障害による拒食で脱水による点滴
ちなみに新人看護師や点滴の手技が不安なあなた向けに記事にまとめているのでぜひ参考にしてください。
参考【失敗しない】点滴下手な看護師が93.5%成功する点滴10つの手順
筋肉注射
精神科では、筋肉注射による鎮静(セデーション)が多いです。
頻度も、1件/日は筋肉注射をしますね。
精神科での筋肉注射の種類は下のようなものがあります。
- セレネース+アキネトンによる鎮静目的での筋肉注射(セレアキ筋注と略することが多い)
- エビリファイやデポ剤の2週間おきの筋肉注射
- アルコールや薬物使用障害の離脱症状予防目的の筋肉注射
とはいえ、筋肉注射のやり方に自信がないという新人看護師さんや精神科初心者の看護師さんは下の記事を参考に勉強してみてください。
参考【保存版】お尻(臀部)への筋肉注射を年100回する看護師が13手順を徹底解説
参考【新人看護師必見】肩(三角筋)の筋肉注射の13の手順とコツ【精神科看護の必須技術】
血糖測定(Bs測定)
精神科は糖尿病や糖尿病疑いの患者さんがたくさん来るので、常時血糖測定をする患者さんがいますので血糖測定の看護技術も必須です。
血糖測定の理由としては下のような患者さんがいます。
- アルコール依存症や薬物依存症による肝機能障害で糖尿病を発症した患者さん
- 抗精神病薬(オランザピン)や気分安定薬、抗うつ薬による副作用で血糖測定が必要な患者さん
- 摂食障害による栄養状態が悪く低血糖リスクのある患者さん
参考日本精神神経学会や日本糖尿病学会、日本肥満学会が2020年5月に作成した『統合失調症に合併する肥満・糖尿病の予防ガイドライン』が参考になります。
吸痰(サクション)
吸痰はたしかに精神科ではあまり使わない看護技術なのですが、実は誤嚥性肺炎で吸痰が必要になることがけっこうあります。
そもそも精神科では誤嚥性肺炎がかなり多い。
精神疾患患者の死因のうち肺炎の占める割合が多い
このように研究でわかっています。
つまり誤嚥性肺炎の患者を精神科看護師が見ることも多いので吸痰や誤嚥性肺炎に対しての治療や看護を勉強するのは必須です。
参考大阪刀根山医療センターの『吸引の方法』資料も参考になります。
尿道カテーテル(バルーンカテーテル)
尿道カテーテルやバルーンカテーテルの挿入から管理、抜去までを精神科ではよくします。
なぜなら、不穏状態で拘束をやむおえずする場合には尿道カテーテルを挿入するからです。
なので滅菌手袋の装着から清潔操作、尿道カテーテルの管理から、合併症のリスクなどを理解した上で看護をする必要があります。
尿道カテーテルの挿入から管理は下の記事が参考になります。
また合併症やリスクについては下の記事が参考になります。
参考鳳優会 尿道カテーテル
精神科看護師が覚えるべき3つのコミュニケーション技術
基礎看護技術の次は精神科でよく使うコミュニケーション技術で3つ紹介しておきます。
精神科看護師が身につけるべきコミュニケーション技術は下の3つがあります。この他にもありますが応用しやすいのが下の3つ。
精神科ではコミュニケーション技術が特に重要で、コミュニケーション技術をしっかりと見に付けている看護師と、そうでない看護師とでは患者さんの信頼度もかなり違います。
確かに看護学生の頃からコミュニケーションは基本『傾聴』だと言い聞かされているので傾聴が重要とわかっている看護師は多いものの、実際は傾聴が『ただ耳を傾けるだけ』と思っている看護師も多いです。
ここでは具体的なコミュニケーション技術3つを紹介します。
- LEAP
- 動機づけ面接
- CRAFT(クラフト)
それぞれを順番に紹介していきます。
LEAP
LEAPとは、
Listen-Empathizw-Agree-Partner(傾聴-共感-一致-協力)
の頭文字をとったもの。
もっと説明すると、統合失調症の患者さんへのコミュニケーション技術の一つで下のような関わりをします。
- Listen(傾聴)→患者の話を患者の言うとおりに聞く
- Empathize(共感)→患者の言動・気持ちに共感する
- Agree(一致)→「患者の不都合なことを解消したい気持ち」と「医療者の治療したい気持ち」を一致させる
- Partner(協力)→患者の不都合なことを解消するために治療に協力してもらう
- Delaying tool(遅らせツール)→「確信に迫る質問」「答えにくいこと」を遅らせる技術
- Opinion(和らげルール、3A's)→患者にApologize(まず謝っておく)Acknowledge(完璧ではないことを認める)Agree to disagree(意見を認め合う)
もう少しLEAPについて詳しく知りたい人は下の記事が参考になります。
参考【必見】精神科看護師5年が使う魔法のコミュニケーション技術『LEAP』を徹底解説 悩む看護師精神科看護師のコミュニケーション技術が気になる人『精神科ってコミュニケーション技術が大切っていうけど『傾聴』『共感』くらいしか学生時代に習わないよね。現場で使うコミュニケーション技術が知りた ... 続きを見る
【必見】精神科看護師5年が使う魔法のコミュニケーション技術『LEAP』を徹底解説
本で勉強したい場合はざっくりとした概要を知るには精神看護雑誌の『精神看護 2020年 1月号 座談会 ロビンソン・クルーソーは無人島で誰に最初に出会うのか 統合失調症から自閉症へ 特集 患者さんと医療者の意向が異なる時のコミュニケーション技法LEAP』を読めば概要がつかめて実際の患者さんにも応用できますよ。
もっと体系的に学びたい人は『病気じゃないからほっといて そんな人に治療を受け入れてもらうための新技法LEAP』がおすすめです。
動機づけ面接
動機づけ面接も重要なスキルの一つです。
と思いがちですが、この方法だと100%患者さんはいい方向に行きません。
あくまでPACEの精神が重要なのです。
また、動機づけ面接には4つのプロセスがあります。
そしてそのプロセスをうまく進めていくためには4つのスキルを駆使する必要があります。
このあたりは別途動機づけ面接の本『失敗しない!動機づけ面接: 明日からの産業保健指導が楽しくなる』や下のリンクで資料を熟読をおすすめします。
精神科看護でのコミュニケーション全般でも使えますし、看護師やビジネスシーン全般で役立つコミュニケーション方法なのでぜひ頭にいれてから看護をしてほしいです。
CRAFT(クラフト)
CRAFTは「Community Reinforcement And Family Training」(コミュニティ強化法と家族トレーニング)の略称で、飲酒問題や薬物問題に悩む家族のためにアメリカで開発されたプログラムです。
CRAFTのコミュニケーション法は下のようにまとめられます。
- 「わたし」を主語にする
- 肯定的(前向き)な言い方をする
- 簡潔に言う
- 具体的な行動に言及する
- 自分の感情に名前をつける
- 責任の一部を引き受ける
- 思いやりのある発言をする
- 支援を申し出る
参考アルコール依存症治療ナビ 家族のためのプログラム『CRAFT』
本で学びたい人はアルコールの季刊誌Be!の内容をまとめた『アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト)』がおすすめです。
精神科ならではの5つの看護や看護技術
基礎看護技術、コミュニケーション技術ときて最後は精神科ならではの看護です。
精神科ならではの看護は5つ程あります。
ここまでは基礎看護技術やコミュニケーション技術を話してきましたが、ここからは精神科独特の看護を紹介していきます。
ざっと下のとおり。
- 隔離や拘束患者への看護
- 包括的暴力防止プログラム
- 希死念慮や自殺企図患者への看護
- 精神科での自傷行為や事故時のファーストエイド
それぞれを解説していきます。
隔離患者への看護
保護室、隔離室、ガッチャン部屋などなど言い方はさまざまですが、精神科特有の鍵がかかる部屋『隔離室』での看護は重要です。
精神指定医の指示の基で行動制限をするのでその観察ポイントや看護は精神科看護師のもっとも重要な仕事ともいえます。
患者の隔離は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるもの
引用:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準 第三 患者の隔離について
行動制限について精神科認定看護師の記事が参考になります。
参考精神科における行動制限とは… 山形県立こころの医療センター
精神科看護 2018年12月号(45-12) 特集1 隔離・身体拘束を長引かせないための一手/特集2 トラウマ・インフォームドケアがめざすもの
拘束患者への看護
拘束対応を行う場合もあるため、梗塞患者への看護も精神科看護師の重要な仕事の一つです。
身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないもの
引用:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準 第四 身体的拘束について
ただ、精神科病院全体の流れとしては拘束や隔離などの行動制限を最低限にして行く流れがあるので、身体拘束最小化を実現した松沢病院の資料を読んで自分なり拘束や行動制限についての考え方や普段の評価などを見改めていく必要はあります。
精神看護 2019年 5月号 特集 松沢病院が身体拘束最小化を実現した25の方法
包括的暴力防止プログラム(CVPPP)
CVPPPとは、包括的暴力防止プログラムのことで、言葉通り、包括的に(Comprehensive)、暴力(Violence)を予防(Prevention)、そして防止(Protection)するためのプログラムです。
CVPPPの原則はしたの8つにまとめられます。
- 助けにいくための包括的な技術
- 当事者・スタッフが安心・安全になるためのもの
- 当事者は「人」
- ケアのための方法
- 最も非拘束的な方法をとる
- あきらめるのではなく理想を考える
- 落着くことができるスキルの獲得
- CVPPPが環境をよくする
ここにCVPPPの考え方が凝縮されているのでよく注意して下さい。
CVPPPを護身術や患者を徒手的拘束による身体介入と勘違いしている看護師も多いのが心配なところ。
CVPPPには確かに身体介入技術を使う場面もあります。1人で緊急時に離脱するための「ブレイクアウェイ(breakaway)」とチームを組んで安全に抑制・移動するための「チームテクニクス」とがあります。
ちなみに『最新 CVPPPトレーニングマニュアル: 医療職による包括的暴力防止プログラムの理論と実践』が体系的に学べておすすめです。
ブレイクアウェイもチームテクニクスについても画像付きでわかりやすく身体介入の仕方が書いてあるのでこれを読んでおけば咄嗟の対応がしやすくなります。
暴力や患者が攻撃的になっている時にどのように対応したらいいかわからない看護師も多いと思います。何か起こったときに病院があなたを守ってくれたらそれが最高ですが、やはり自分の身は最低限自分で守れるようにブレイクアウェイは身につけておくのがベスト。
ブレイクアウェイは護身術や合気道を基礎に、相手から攻撃され抑えられたりしたおき逃げるためのテクニックで、離脱技術。攻撃者から逃げるためにも精神科看護師は勉強が必須です。
精神科看護 2017年6月号(44-6) 特集:精神科看護とCVPPP
希死念慮患者への看護
自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント
精神科での自傷行為や事故でのファーストエイド
最後に精神科ならではの対応に、自傷行為や患者の精神症状による事故で外傷への対応を求められます。
例えば、ボールペンやナイフでリストカットをしてしまった、腹を切り開いてしまったなどの場合、初動のファーストエイドはどのようにしたらいいのか?迷う人も多いですよね。
それを一冊にまとめたのが、『精神科ならではのファーストエイド 搬送時サマリー実例付』です。
この本は精神看護という雑誌の連載をまとめて加筆して作成された本。写真が痛々しいのですが、実際にどのような声掛けをしたらいいのか、どのような処置をしたらよいのか具体的に書いてあるので『いざというとき』に動けるようにイメトレの材料にしましょう。
精神科よくある8つの対応とあるある悩み
- 便秘への対応
- 夜勤の注意点
- 繰り返す入退院
- セクハラへの対応
- 血液データでの注意点
- 陰性感情への対処方法
- 巡回パトロールのポイント
- 受持ち患者の看護計画や退院計画
それぞれを見て行きましょう。
『精神科看護師のための体の見かた: バイタルサイン+フィジカルアセスメントで異変のキャッチと状態像の把握がすぐ身につく!』
便秘への対応
精神科では便秘を持っており患者がたくさんいます。
その理由は簡単で、抗精神病薬による副作用があるから。またアルコール使用障害患者や薬物使用障害患者ではアルコールや薬剤の影響から便秘になるためです。
このため、便秘の観察やアセスメント技術は必須になります。
腹部音の聴取、打診、触診などを通してアセスメントして適宜便秘の指示を主治医や内科医と相談出来るようにしましょう。
特によく使われるのは、マグラックス、大建中湯、ピコスルファート(シンラック)、プルセニドなどの下剤。またテレミン坐薬も使用する場合があります。
いずれにしても便秘からのイレウスを起こしたり、便秘解消による便性ショックを起こしたりするリスクもあるため十分注意が必要です。
夜勤の注意点
精神科の夜勤では不穏やせん妄になる患者も多いため注意が必要です。
特に
- 自殺企図や自傷行為をする患者
- 不眠で不穏になる患者
- アルコール離脱症状によるせん妄患者
などなどバリエーションも豊富なのでそれぞれの対応方法をよく確認しておきましょう。
繰り返す入退院
精神科はその性質上、入退院を繰り返す患者が多くいます。
精神科は診療報酬上で3ヶ月を置いて入院しないと急性期で点数がとれないため、患者もそのことを理解して入院していきます。概ね精神科の急性期は3ヶ月の入院が可能なため3ヶ月入院して退院後3ヶ月以上経ったら再度急性期に入院してくるというサイクルを繰り返す患者もいます。
このような入院を減らすためにも退院後の生活を考慮した看護計画や退院後の計画を考える能力が看護師には求められます。
セクハラへの対応
患者からのセクハラも精神科ではとても多いため女性スタッフも男性スタッフも注意が必要です。
女性看護師へのセクハラは一般病棟でもよくありますが精神科ではもっとあからさまな患者さんも多いです。
- 陰部を出して性的な逸脱をする患者さん
- ボディタッチをしてくる患者さん
- わざと清拭をさせてにやにやしている患者さん
上記は一例ですがTwitterではもっと生々しい体験ばかりですよね。
精神科看護師は女性だけでなく男性看護師もセクハラに注意です。セクハラというかハニートラップに近いですね。
- ボーダーの患者さんに好意を持たれる
- 精神科は自殺企図予防のためのパトロールが多いため女性患者の着替え中に見回りをしないよう注意
- 躁状態で衣服を脱ぎ捨ててスッポンポンの患者さんとの遭遇
血液データでの注意点
精神科患者さんの血液データで注意が必要な値は下のとおり。
- 白血球やCRPなどの感染兆候→単純に肺炎や尿路感染が頻発する、悪性症候群で高値になる
- リチウムを始めとする気分安定薬の血中濃度
- γ-GDPやALTなどの肝機能→精神科の薬では肝機能が障害されやすいため、またアルコール依存症や薬物依存症での肝機能の評価のため
- クロザリルの影響で反応する血液データ
陰性感情への対処方法
患者さんからの陰性感情もあれば、看護師が患者さんへ陰性感情を持ってしまうも多いのが精神科。
一般科に比べると一筋縄では行かない患者さんが多いので「こうしたら正解」という対応はありませんが基本は患者さんの言動や行動に左右されないことが重要です。
ここでおすすめしたいのがボーダーラインシフト。
ボーダーラインシフトとは、精神科医である市橋秀夫により考案された、医療機関が境界性パーソナリティ障害(BPD)患者の操作性に効果的に対処する為の治療指針。
- なにかしてあげてはならない。
- 医師の指示以外のことを行ってはならない。
- 話を聞いてあげてもよいが、患者に入れあげない。
- 他のスタッフに対する批判を真に受けない。患者の話を真に受けない。自分に対する陰性感情は「症状」の1つと割り切ること。
- 起こしたことの責任を患者自身に引き受けさせること。
- 大丈夫と言ってあげること。
- 互いに情報を綿密に交換する。
- 自殺企図などの深刻な行動化が起こっても、過剰反応しない。たじろがない。
- 患者の冗談やユーモアの才能を引き出すこと。
- 待つこと、我慢させることが治療の力になる。
精神科患者さんに振り回されそうになったときには、この10か条を思い出して対応すると少し心持ちが楽になりますよ。
巡回パトロールのポイント
巡回パトロールのポイントは下のとおり。
- 患者を起こさない
- 環境に変化が無いか見る
- プライバシーに配慮する
- 患者一人ずつの生存確認をする
日勤や夜勤問わず基本は上記の4つを意識して行いましょう。
精神科では精神症状やうつ症状で希死念慮や、実際に自殺企図を図る患者さんもいます。
自殺のリスクのある患者さんには自殺危険度のチェックを欠かさず毎日行い、行動化に注意して観察が必要です。
国立精神・神経医療研究センターの『日常臨床における自殺予防の手引』が参考になります。
また自殺に限らず転倒や転落、せん妄による破壊行為、攻撃性がある患者さんもいるので環境調整を看護が行うのも大切です。
参考精神科看護師歴5年が臨床でよくみる14の症状【アセスメント&看護計画も解説】
発達障害や知的障害で他患者さんと距離がうまく取れない患者さんは観察頻度を上げてトラブル防止に務めるのも重要です。
受持ち患者の看護計画や退院計画
受持ち患者の看護計画や退院後の計画は精神科看護の醍醐味の一つでもあり、悩み多きところでもあります。
ここでは簡単に受持ち患者の看護計画や退院計画の考え方をまとめていきます。
難しい事を考えずまずは下の2つに分けましょう。
- 入院理由
- 患者や家族の希望
あとは上記二つを下のように変えてみましょう。
- 入院理由となったことがまた起こらないようにするためには何をするのか
- 患者や家族の希望をかなえるためには何をするのか
このようにすると患者さんの看護計画や退院後の計画を考えてみましょう。
【まとめ】精神科の勉強をして看護に活かそう&精神科にぜひ転職を
さて、かなり長い記事になりましたが精神科で必要な勉強方法や勉強内容をざっとまとめてみました。
ここでのコミュニケーション技術や精神科における患者対応は精神科以外の一般科でも地域でも、保健領域でも応用できます。
もし、精神科で実際に精神看護に携わりたいという人は下の記事で精神科転職に必要な知識をまとめているので是非参考にしてください。
参考【2021年最新】精神科看護師転職マニュアル【仕事内容・役割・やりがい徹底解説】
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現役精神科看護師6年目が精神科への転職と求人探しを解説【注意点と向いてる人】
悩む看護師精神科への転職を考えている看護師『精神科看護師への転職をしたい。家族からも帰りの遅い一般科よりラクそうな精神科を勧められるけど、実際どんな仕事をしているのか?おすすめの転職先とか病院の選び方 ...
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